連載小説「いい加減」30大和川人
「寿司がどうしたんだ?」
今度は達がとがめる。
「いや、何でもないんだ。ちょっと外に出ないか」
どうせ帰らなければならない。近くの公園で用が足せるだろう。大した頼みごとではないはずだし、今夜でないといけないことでもなかろう。
「いや、ここで話したい。靖子にも聞いてほしいことなんだ」
「なんだな、大げさだな」
「大げさかもしれない。前々から考えていたんだ」
「分かった。聞くから簡単に言ってくれ」
「じゃ、言う。今はお前が一番の友達だし、家族ぐるみでつきあっている」
「俺には家族がないがね…」
「チャチャ入れるな。実はな、離婚したあと、こいつのことをお前に頼みたいと思っているのだ」
あっ、声も出ない。俺は予期しない申し出に実に驚いた。
「…何を言うのだ、急に…。第一靖子さんに失礼ではないか」
思わずそう言うと、「俺の願いだ。だから、今夜来てもらったんだ」と答える。
「靖子さん、こいつこんなこと言ってるが、どういうことなの?」
「いつでも勝手に事を進めて失敗する人だし、酔っぱらっているだけ…」
「そうだと思った。あまりおどかすなよ」
「これが一番いいのだ」
「何が一番いいのだ?俺には迷惑だね…」
「靖子のこと嫌いなのか」
「嫌いとか好きとかじゃない。そんなこと考えもしなかったよ」
「嘘だろ、靖子のこと嫌いではなかったはずだ」
「もちろん、嫌いじゃない。だが、後の面倒みるなんて思いもよらないし、あまりに唐突だろ…」
「ゆっくり話しても同じことだ。まあ、そうしてくれ」
「ヒドイ奴だな、お前は…」
mori(峯風庵 和の心 http://www.wa-no-kokoro.jp/)
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