連載小説「いい加減」29 大和川人

 手をついてぐるぐると首を動かし部屋を眺めてみる。当然押入れがある。押入れに寝具は付き物。狭間夫婦がここに住んで何年になるのか、およそしか知らないが、寝具を出してまさにこの場所で夜の営みが幾年かはあったのであろう。そう思うと靖子の艶かしい寝姿がまぶたに浮かぶような気がする。裸体を眺めてみたい気にもなる。ここでこの女を押し倒したらどうするだろうか。ふすま越しに子供らが居るが黙って愛撫ぐらい耐えてみせるかもしれない。都合のいい想像は叶わなくても気分のいいものだ。酔っているセイで平気で頭が淫らになる。
 あとは、整理ダンス、テレビ、小さな鏡台。ちゃぶ台が隅に追いやられている。
あっさりしたもの。無駄を省くというより、物が置けないということだろう。
 それでいいのだ。俺がとやかく言う筋合いではない。家庭の居間は所帯じみたことを考えさせる。嫌なことである。
 靖子はテレビに顔を向けビールを飲んでいる。もう俺に用はないということか、
それとも単にぼんやりしていたいだけなのか。俺も暇な気分で要らぬことを思う。
 そんなことをつらつら思っていたとき、玄関の戸ががたがた鳴る。
 達である。上がってくるなり、「待たせたな。人と会っていて遅くなった」と。
 嘘だ、今じぶん誰と会っていたというのか。多分時間つぶしにパチンコをしていたのであろう。女房から俺に言わせる時間を見計っていたに違いない。
 だから、俺の方から言ってやった。
「お前ら離婚するんだってな。今聞いたとこだが、半分冗談で言っていると思っていたがほんとだったんだ、そうだな?」
「そうなんだ。女房から聞いてくれたとおりだよ」
「どう言ったか分かっているのか」
「まあ分かるよ。一応夫婦だから…」
「なるほど、それは確かだ。で、今夜中に何か俺に言いたいことがあるとか」
「うん、ある」
「時間かかる?ちょっと腹が減ったのでラーメンでも食いたくなった」
「あら、あの寿司、フーさん食べるつもりだったの?」
靖子がいかにも驚いた風に口をはさむ。

mori(峯風庵 和の心 http://www.wa-no-kokoro.jp/)

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